みなさんこんにちは。
内山です。
DVDやブルーレイはおろか、
ビデオが家庭に普及していない時代は、
映画は映画館で観るしかありませんでした。
巻き戻しや早送りはできませんし、
もう一度見たければ、また映画館に行くしかありません。
しかし、配給されている時期も限られていますので、
なかなか見れるものではありません。
そんな時代に、何が何でも何度も見たいと
思わせてくれた映画はそれほど多くありませんが、
SFの古典といわれる「2001年宇宙の旅」は、
迷わずにみたいとの決心をした映画でした。
SFといっても夢物語ではなく
宇宙規模での人類の進化をテーマにした哲学的なストーリーです。
それまでのSFの域を超えた壮大なストーリー
今でもそうですが、SFというと
スターウォーズやスタートレック等に代表されるものや、
隕石が落ちてきたり、宇宙人と闘ったり、
地球に異変があったりするものなど、
娯楽を中心に考えられたものがほとんどです。
ましてや60年代70年代あたりは、
SFはいわゆるB級映画と呼ばれて、
気を使わずに観るものでした。
重力がないはずのところで普通に人が立っていても、
力学的におかしな戦闘があっても、
気にする必要もなかったのです。
しかし「2001年宇宙の旅」は、
それらとは何から何まで違い、
数百万年規模のスケールで人類の進化について
宇宙を舞台に描写してみせるという
ありえないようなストーリーなのです。
なので、気を使わないSFに触れようとして観ると
見事に裏切られることになります。
ドンパチがあったり、スペクタクルな展開でもなく、
内容はきわめて難解です。
かんたんなあらすじ
監督はスタンリー・キューブリック、
原作はアーサー・C・クラークで、
クラークの哲学をキューブリックが見事に
描写したものになっています。
全編を通じて、セリフが少なくダイレクトに観る者の
マインドに訴えかけてきます。
テーマが難解なのは製作者もわかっていて、
クラークは全編に渡って説明のナレーションを入れるつもりでしたが、
結果的にそのすべてがカットされています。
構成は
「人類の夜明け」
「木星探査」
「木星 そして無限の宇宙の彼方へ」
という3部で成り立っています。
人がまだ外敵に恐れおののいていた300万年前、
モノリスと呼ばれる黒い石版がある部族の前に出現します。
それに触れたひとりが「骨を武器として使う」ことに覚醒め、
敵の部族を殴り殺します。
その骨を宇宙に投げると、
画面は一気に宇宙空間を漂う宇宙船へシフトします。
月面で400万年前に人為的に埋められたというモノリスを発見した人類は、
そこから強烈な波を発している木星への探査を始めます。
(ただ、このことは乗組員には知らされていませんでした。)
木星へ向かった宇宙船の名は「ディスカバリー号」、
その管理を一手に引き受けているのは
世界最高のAIであるHAL9000型コンピューター。
旅の途中で、そのHALがトラブルを起こします。
それに気がついた船長のボーマンは乗組員のプールと相談し、
HALに気付かれないように中枢を切り離そうとしますが、
それをHALに気づかれ、HALの罠にかかって
プールは船外活動中、HALに殺害されてしまいます。
ボーマンも危うい目にあいますが、
何とかHALの中枢を切り離します。
ちょうどそのとき、ディスカバリーが木星に到着し、
宇宙空間に巨大なモノリスがあることにボーマンは気づきます。
ポッドに乗り込み、モノリスに近づくと、
ボーマンは異次元にいるような神秘体験をします。
(ここは、まさにことばではいい表せません。)
その後ボーマンは時間と空間を超越した世界で暮らし、
次世代へと進化したスターチャイルドに生まれ変わって、
宇宙空間から地球を見下ろすのでした。
とまあ、神なのか異星人なのかわからない存在が
400万年前にセットしたモノリスという石版があり、
それに触れた人類が進化していくという
あらすじなのですが、そこにAIも登場します。
飽くまでリアルにこだわった特撮がすごい
特撮技術がコンピューターで行われるようになり
映画がCGだらけになって久しいですが、
特撮自体は、映画の黎明期からありました。
いうまでもなく特撮はSFで使われることが多いのですが、
ほとんどは娯楽に終始するため、
今も昔も圧倒的にリアル感が足りません。
その点「2001年宇宙の旅」は、
「宇宙空間をリアルに学べる」
といってよいほど、綿密に考証がされています。
しかも、今のように無駄にCGとかがない分、
セットとカメラワークでそれを成し遂げているので、
さらに現実味があります。
随所に登場する宇宙食は実際にNASAから
提供されたというのは有名な話です。
そのせいか、逆に古臭さを感じさせず、
今でも真剣に見入ってしまいます。
他の映画でもキューブリックの完璧主義ぶりは
話題になっていますが、
まさにお見事というしかありません。
すごいと思うところ
1968年に映像化されている
アポロ11号が月面へ向かったのは翌年の1969年。
この映画をリアルで観た年代は、
日本では戦前生まれの人達で、
小さい頃は「月ではうさぎが餅をついている」と
本気で信じていた年代です。
そんな時代にリアルなAIまで登場させて、
人類の未来を見据えるなど、
製作者たちが実は未来人だったのではと思えるほどです。
AIのHAL9000の描き方が今観ても新しい
HALがすごい。
無理くりロボット型のAIとかにしているのではなく、
声とカメラのみでしか登場しないところが不気味です。
当時としては、逆に大冒険だったのではと思います。
ちなみにこの映画はIBMが全面協力しましたが、
HALはIBMのひとつ前のアルファベットを組合せたものになっています。
人類が未体験のことの映像化に挑んでいる
ボーマンが木星でモノリスに触れた前後を
クラークは
「スターゲートをこえた」
と小説で表現していますが、
ボーマンは300万年前の道具を初めて持った猿と同じ体験をしているので、
それと同等の力に覚醒めたことになるのですが、
その感覚は私たちには実感できません。
それをキューブリックは映像で表現することに
真っ向から挑んでいます。
立体がわかっている人は平面をイメージできますが、
その反対はできません。
ほとんどの人が3次元しか意識をしなかったであろう当時に、
さらに高次元の感覚を見事に映像で表現してみせたといえるでしょう。
実際、その映像はボーマンの精神世界を表現したものであるのではと思います。
サントラがSFではなく哲学っぽいクラシック
SFの音楽というと、あえて現代的ではない音作りをしているという
イメージがありますが、2001年宇宙の旅のサントラは
全編を通して有名なクラシック音楽で彩られています。
中でも印象的なものは、
リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」です。
いうまでもなく哲学者ニーチェの著作をもとに作曲された作品です。
感覚としては、この曲とセットで制作がされていても違和感がないくらい
作品にフィットしています。
もうひとつはヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」です。
宇宙ステーションや宇宙船が映し出される場面で、
この美しいワルツが流れます。
宇宙をバックにこの曲を聴くことの贅沢さといったらありません。
今でこそ、国際宇宙ステーションからの映像を
スマホでも見られるようになりましたが、
映画館でこれを体験した当時の人にとっては至福の時間でした。
まとめ
2001年宇宙の旅を語ると止まらなくなる人たちは
世界中で山のようにいます。
今でも映画祭でリバイバルされたり、
投票でも常にトップを走り続けていることが名画の証です。
CGにまみれている今だからこそ、
一回は観ていただきたいと思います。